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#23 和モダンな工芸品のススメ〈9月〉

御香微笑・石栗朋子さんとの出会い

以前から、和モダンN6北円山のオリジナルのお香をつくりたいと思っていました。

いろいろなお香を試したり、お香のワークショップを見つけて参加したり。
休日にも足を運びながら探していたのですが、 
なかなか「これだ」と思える出会いには至りませんでした。

そんな中でご縁がつながったのが、香司・御香微笑(みしょう)の石栗朋子さん。

9.10-9.13の期間は、石栗さんによるお香の展示
「御香微笑個展 重陽 -香りと祈りのしつらえ- 」
も開催しました。

そして、石栗さんのお力を借りてつくった和モダンオリジナルのお香も
個展の幕開けとともに満を辞して店頭に並びました。

 

♦︎和モダンオリジナル御香
望月 - Wa-modern store
朔月 - Wa-modern store

この方につくっていただきたい

石栗さんのことは、以前から存じ上げていました。
ホームページなども拝見し、その活動に興味を持っていたんです。

ただ、専門的にお香の世界を追究されている方ですから、
「私たちのお願いを引き受けてくださるだろうか」と
少しハードルの高さも感じていました。

まずはほかの場所も見て、それでも見つからなければ相談してみよう。
最初は、そのくらいの距離から見ていた方でした。

ところが、ありがたいことにご紹介をいただき、
石栗さんご本人が和モダンを訪ねてくださることに。
思いがけないご縁から展示の開催が決まり、
何度もお香の歴史や香りについてお話を伺いました。

その時間を重ねるうちに、

「やっぱり、この方に和モダンのお香をつくっていただきたい」

そう強く思うようになりました。


個展での御香微笑・石栗朋子さんの実演の様子。


一つ聞けば、十返ってくる人

実際にお会いした石栗さんを、ひと言で表すなら……
“お香オタク”でしょうか。

お香の話が始まった瞬間、ぱっとスイッチが入るんです。
お香が本当に好きで、その思いが言葉からどんどんあふれてくる。

一つ聞くと、十の答えを返してくださる。
少し変化球のような質問をしても、きちんと受け止めて返してくださいます。

それは、豊かな知識を持っているからだけではありません。

お香の世界をもっと多くの人に知ってもらいたいという、
純粋な思いがあるからなのだと思います。

また、石栗さんは、とても責任感の強い方です。
御香微笑を通してお香を手にするお客様への誠意や、おもてなしの気持ちが深く
今回の個展期間で準備からご一緒させていただきながら
その姿勢は、展示の随所にも表れていました。

「2026年で最も印象に残る展示になるのでは」

私自身、そう期待していたほど、
石栗さんは準備を一つひとつ大切に進めてくださいました。




そして出来上がった空間。幽玄な世界観で、香りへの好奇心も高まっていく気がしました


御香微笑・一華会の香司さんたちによる御香のポップアップストアも開催。
ここでしか買えない季節の御香もずらり。亀のお香立てが可愛かったです

 

満ちる夜と、はじまりの夜


今月から発売のオリジナル御香について。

二つの香りには、月の名前をつけました。

ひとつは、満月を意味する「望月(もちづき)」。
もうひとつは、月が姿を消し、新しい満ち欠けが始まる「朔月(さくづき)」です。

私たちがこの二つに重ねたのは、満月や新月そのものというより、
人の暮らしにも「満ちる時間」と「空にする時間」があるということでした。

今日できたことや、今ここにあるものを味わう夜。
いろいろなことを終えて、明日のために余白をつくる夜。

どちらか一方だけではなく、その二つを行き来しながら毎日は続いていきます。

だから、その日の自分に合わせて選べる二つの香りにしました。



香立ては信楽焼作家の奥田章さんに特注。望月/朔月でそれぞれの香立てが一つずつ入っています


望月 — 満ちる夜

望月は、天然の老山白檀を基調とした香りです。

白檀にはどこか馴染み深さがありながら、
今回の調合は甘さがいつまでも残る感じがありません。
焚いてみると、やわらかく広がって、最後はすっと引いていきます。

一日を終えて「今日もよくやった」と思える夜や、
食事のあとにもう少しゆっくり過ごしたいとき。

何かを足して気分を変えるというより、
すでに自分のまわりにあるものを、
もう一度味わうための香りとしてつくりました。





朔月 — はじまりの夜

朔月は、沈香を基調とし、野州産の麻炭を使用した香りです。

私が初めて沈香を聞いたとき、思わず「酸っぱい」と感じました。

それまで自分が思っていた「いい香り」とは少し違う。
甘く華やかな香りではなく、鼻の奥がすっと開くような鮮烈さがあって、
それがとても印象に残りました。

一般的には少し玄人好みともいわれる沈香ですが、
今回の朔月は、その奥深さを残しながら
初めての方にも手に取っていただけるところを探っています。

一日の終わりに頭の中に残っているものをいったん置いて、何もないところへ戻る。

空っぽになることを、次のはじまりとして楽しむ。

そんな夜に焚いてほしい香りです。



DIRECTOR’S POINT

今回、二つに共通して大切にしたのが天然香料でつくることでした。

試作を重ねる中で面白かったのは、お香は火をつけた瞬間だけで判断できないということ。

近くで聞いた香りと、少し離れたところに漂ってくる香りは違います。
そして火が消えたあと、部屋に残る香りにもまた違った表情があります。

天然香料のお香は、強い香りがいつまでも部屋を占領するのではなく、
余韻を残しながら少しずつ遠ざかっていきます。

私は、その「なくなっていくところ」まできれいなことがとても気に入っています。

香りを重ねて華やかにするのではなく、選ばれた香料それぞれの気配があり
それがひとつにまとまって、やがて消えていく。

少し離れたところで焚いて、漂ってくる香りを待ってみる。
火が消えてから、もう一度部屋の空気を感じてみる。

そんな楽しみ方をしていただけたらと思います。


まずは、香りを「聞く」ことから

文章を書いておきながら最後にこんなことを言うのもなんですが、
香りは、やっぱり言葉だけでは伝えきれません。

白檀を「やわらかい」と感じる方もいれば、違う表情を見つける方もいる。
沈香を、私のように「酸っぱい」と感じる方もいれば、
まったく違う言葉が浮かぶ方もいると思います。

それも、香りのおもしろさです。

店頭では実際に焚きながら、皆さまが何を感じるのか、
私たちも聞いてみたいと思っています。

今回の二種類を完成形と決めてしまうのではなく、
季節や皆さまの声を受け取りながら、
これから和モダンの香りを少しずつ育てていくつもりです。

お香がお好きな方も、まだ馴染みのない方も。
まずは店頭で、望月と朔月、二つの香りを聞き比べてみてください。

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