今年から個人企画で「工芸の旅」というのをやろうと思っています。
和モダンをオープンする前は、よく作家さんの工房を訪ねていました。
実際にお話を聞き、
制作の現場を見せていただき、
その土地の空気を感じる。
そういう時間が私はとても好きです。
お店を始めてからはなかなか遠方へ行く機会が減ってしまいましたが、
やはり工芸を知るには、作られている場所へ行くことが大切だと思っています。
その第一回として訪れたのが鹿児島でした。
鹿児島空港から車で1時間ほど。
移動している間、どこを見ても桜島が見えるんです。
ありがたいことにお天気にも恵まれ、
窓の外には青空と桜島。
「なんて気持ちのいい場所なんだろう」
そんなことを思いながら向かった先が、
和モダンでもお取り扱いしている島津薩摩切子の工房でした。

工房の看板にも本物の切子が。島津藩の直系の方々が継承しており
紋がそのまま会社のロゴマークとして使われている。
店頭で作品をご紹介していると、
その美しさに目を留めてくださる方が多くいらっしゃいます。
私自身も初めて実物を見た時、
「こんなに美しい切子があるんだ」
と感動したことを今でも覚えています。

●薩摩ガラス工芸(島津薩摩切子) - wa-modern store
今回の工房見学で特に印象に残ったのは、
ある女性職人さんのお話でした。
メディア取材などがあると対応されることも多い方で、
実際にお会いしてみると、とても穏やかな雰囲気の方。
でもお話を聞いていると、その奥にものづくりへの強い誇りを感じました。
島津薩摩切子では、吹きガラスからカットまでをすべて自社で行っています。
なかでも驚いたのがカットの工程です。
実はカット場に入るためには、
最低でも10年ほど経験を積む必要があるそう。
「技術が身についたらすぐ任せる」のではなく、
長い時間をかけて育てていく。
その姿勢からも品質へのこだわりが伝わってきました。

体験で作ったキーホルダー。以前、体験した江戸切子のカットと比べてまず道具が違いました。
今どこをカットしているのかがわかりやすく、同じ場所からもう一度刃を入れることができる反面、
シャープな線を出すのはやっぱり職人技。
そして何より嬉しかったのは、
工房の中を惜しみなく見せてくださったこと。
吹きガラスの工程では、職人さんが熱い窯の前でガラスを成形していく様子を
すぐ近くで見ることができました。
目の前には真っ赤に熱せられたガラス。
職人さんが息を合わせながら形を整えていく様子を
すぐそばで見学することができます。
窯の熱気まで伝わってくる距離です。
店頭で作品を見るだけでは分からない、ものづくりの熱量。
「どうしてこんなに美しいんだろう」
その理由が少し分かった気がしました。


厚み1cm。透明なガラスに色ガラスを重ね、その厚みを削り出すことで
薩摩切子ならではの深い色合いや奥行きのある輝きが生まれます。
温度差による割れを防ぐため、
一晩かけてゆっくり冷やす「徐冷(じょれい)」。
そこで基準を満たしたものだけが、
次の工程へ進むことができます。

また、同じガラスであっても、
色によって求められる技術や判断が変わることを知り驚きました。
例えば黄色は熱を加えすぎると白く濁ってしまうため、
加熱できる回数にも限りがあるそうです。
私自身、まだまだ見足りないこと、
もっと深めたいと感じることばかりでした。
工房では、職人の方がデザインされた作品も見せていただきました。
伝統的な文様を受け継ぐだけではなく、
新しい表現にも挑戦されており
薩摩切子が今も進化を続けていることを目にすることができました。
島津薩摩切子の職人さんの平均年齢は30-40代、
20〜30代の比較的若い職人さんも多い印象。
ものづくりと真剣に向き合う方々に、
どう技術を継承していくかが、
全体的な課題であると
お話を伺った職人の方がおっしゃっていました。
これは薩摩切子だけの話ではありませんが、
職人を目指す若者が5年、10年経ってからも
別の道に進まれることも少なくないそうです。
だからこそ、今目の前にある作品も当たり前ではないんだなと思います。

西郷さんと一枚
どこへ行っても桜島が見えて、
歴史ある建物や文化が今も自然に残っている。
桜島へ渡るフェリーも24時間動いているそう。
鹿児島という土地そのものもすごく魅力的でした。
美味しいものもたくさんありますし、
工芸をきっかけにその土地を訪ねてみるのも面白いと思います。
もし機会がありましたら、ぜひ薩摩切子の工房も訪ねてみてください。
作品だけではなく、その背景にある人や土地の魅力もきっと感じられると思います。

江戸時代より薩摩武士に愛されてきた両棒餅(ぢゃんぼもち)
餅に2本の竹串をさしており、
この形は、武士が腰に大小の刀を2本さす姿からきていると伝わっています。
隣接する仙巌園。桜島を築山に、錦江湾を池に見立てた雄大な借景。

謁見の間

島津藩の十字の紋

